「存じております。だから、こうしてお願いしているのです。その権利を行使して離縁してください。ご存じの通り、わたくしは妊娠しておりません」

 妊娠していないどころか、リーゼロッテは結婚して二年経った今でも清い体のままだ。なぜなら、結婚式当日の初夜をテオドールにすっぽかされ、その後も一度も閨を共にしていないのだから。

「全て、旦那様のご意思に従いましょう。今すぐ出て行けというならば、明日にも去ります」
「……んなに、ここを去りたいか」
「え?」

 テオドールの低い呟きがよく聞き取れず、リーゼロッテは聞き返す。

「そんなにここを去りたいのかと聞いたんだ」

 怒鳴るのを耐えているような低い声が、今度ははっきりと聞こえた。リーゼロッテを真っすぐに睨み付ける眼差しには、明確に強い怒りがこもっていた。

「わたくしは──キャッ!」

 ──わたくしは、旦那様がそれを望んでいるから、そう申し上げたのです!

 そう続けようとした言葉は、リーゼロッテ自身の悲鳴にかき消される。立ち上がったテオドールに、右手首をがしっと掴まれたのだ。そのまま力強く手首を引かれ、リーゼロッテは無理やり立たされる。