「なんとか言って断わったらどうだ?」

 カルロがテオドールに進言する。しかし、テオドールは「ハッ」と笑うと書類を机の上に投げ、カルロを見た。

「王室がお膳立てした縁談だぞ。断れると思うか? 王命に背いた反逆者扱いされるぞ?」

 吐き捨てるように言ったテオドールの台詞を聞き、カルロはぎゅっと拳を握った。
 カルロの主であるテオドール=ラフォンはまだ二十五歳の若き辺境伯だ。だが、その若さをものともしない圧倒的な強さと指導力で、この辺境の地を治めてきた。

 だが、それ以上にテオドールが国王から一目置かれているのは、その強さ故だった。
 イスタールには普通の騎士のほかに、馬と幻獣を掛け合わせたミックスであるヒッポグリフを乗りこなすことができる幻獣騎士がいる。幻獣騎士はただでさえ精鋭なのに、その中でもテオドールは唯一、幻獣そのものであるグリフォンに乗ることができた。

 グリフォンは鷹の頭に獅子の体を持ち、幻獣の中でも神聖な存在として崇められる〝聖獣〟だ。その聖獣に愛された人間の血をなんとしても残したいと考えているのだろう。

「本当に……、全くもって面倒だな」

 テオドールは先ほどと同じ言葉を繰り返す。

「しかし、国王もなかなか考えたものだな。評判の悪い娘と高位貴族との仲を取り持てばオーバン公爵家には表向きは恩を売れる。誰も嫁ぎたがらない俺なら、その厄介者の女を押し付けるのにうってつけだ。そして上手くその女が子供を産めば、グリフォンを乗りこなす幻獣騎士に育つかもしれない」
「感心している場合じゃないだろう! テオにそんな毒婦を押し付けるなんて──」
「いや、いい」
「は?」
「いいと言ったんだ。その女、俺が貰おう」