(ふーん。気に入らないわ)

 気に入らない。イラリアの欲しいものを邪魔する人間など、存在する価値すらない。それが、周囲から高く評価された高位貴族の美女であれば、なおのことだ。

 だから、消えてもらうことにした。

(問題は、どうやってそれを実行するかね)

 オーバン公爵家は名門貴族で政界への影響力も強い。単に婚約解消を命じただけでは激しい抗議にあい、うまくいかないだろう。成功させるためには、リーゼロッテ自身に悪者になってもらう必要がある。

 人間だれしも、ひとつぐらい疚しいところがあるはず。そう思ってイラリアは部下たちにリーゼロッテについて調査させたが、何もでてこない。

(どういうことよ!)

 思い通りに話が進まず苛立ちを感じていたある日のこと、イラリアは自分の侍女とアドルフが親しげに話しているのを見かけた。
 急激に頭に血が上り、激しい嫉妬心が湧き上がる。
 その侍女が紅茶を運んできたタイミングで、わざとカップごと零して彼女の手にかけた。

「熱っ」

 侍女は咄嗟に手を引く。淹れたての紅茶がしっかりとかかった肌は、真っ赤な火傷になっていた。

(いい気味)

 痛みに顔を歪める侍女を見て、すーっと溜飲が下がる。そして、閃いた。

(そうだわ。リーゼロッテが嫉妬にまみれてわたくしの侍女に悪さしたことにすればいいのよ)