リーゼロッテはすうっと息を吸う。

「お父様、行かせてはいただけませんか? この婚姻を断れば、わたくしは一生を修道院で過ごすことになるでしょう。どうせなら、愛する人達の役に立ちたいのです」

 リーゼロッテはオーバン公爵を真っすぐに見つめ、胸に手を当てる。
 今までずっと、オーバン公爵家を継ぐつもりで必死に勉強してきた。大好きな領地の領民達が穏やかに暮らせるように、少しでも役に立ちたいと思っていた。

 それが叶わなくなった今、リーゼロッテにできることと言えばこれ位しかない。

 オーバン公爵はしばらくリーゼロッテを見つめたのちに、目頭を指で押さえる。

「不甲斐ない父を許せ」
「あら。お父様はわたくしの誇りですわ」

 父がどんなに自分のことを愛してくれているか、リーゼロッテはよく知っている。
 それに、どうせこのあとつまらない余生を送るなら、刺激があるほうに賭けてみたい。それは、リーゼロッテの包み隠さぬ本心だった。