(アドルフ様とはかれこれ五年近く婚約者として過ごしたけれど──)

 男女の恋情はなくとも、オーバン公爵家をこれから一緒に支えていく同志だと思っていた。それは、リーゼロッテの幻想だったのだと知り、むなしさだけが残る。

(オスカー様はとても優秀な方だから、きっと大丈夫)

 シャーロットと結婚するオスカーは侯爵家の次男で、実家の持っているもうひとつの爵位である子爵を継ぐ予定でいた。しかし、今回の件でシャーロットと共にオーバン公爵家を継いでくれないかと打診したところ、驚きつつも承諾してくれた。

(わたくしは、どうしようかしら)

 婚約破棄された上に王女から睨まれたリーゼロッテのことを娶りたいなどという男は、まずいないだろう。

(人生ってままならないものね)

 ふと目を向けた窓越しに、小枝で羽を休める小鳥が見えた。小鳥はきょろきょろと辺りを見回し、やがて大空へと羽ばたく。

(わたくしも、あんな風に自由に飛んでゆけたら──)

 けれど、公爵令嬢として生まれた以上、そんなことは叶わないとわかっている。リーゼロッテははあっと息を吐く。

(お父様とシャーロットの言葉に甘えてまずは領地に戻るとして、早めに受け入れてくれる修道院を探さないと)

 ひっそりと、奉仕活動でもしながら過ごそう。そう思っていたのだが──。