「わたくし達が結婚して、本日で二年になります」
「記念日にかこつけて宝飾品のおねだりでもするつもりか? 大した面の皮の厚さだ」

 テオドールは鼻でハッと笑う。

「宝飾品?」
「お前が町の宝飾店に行っていたことを知らないとでも思ったのか?」

 見下したような視線に、リーゼロッテはぎゅっと膝の上の手を握る。
  宝飾店には確かに行ったが、宝石を強請るためではない。

「離縁してくださいませ」

 テオドールの問いに答えることなく、リーゼロッテは静かに告げた。

「……なんだと?」
「離縁してくださいと申し上げました。わたくし達が結婚して今日で二年。イスタールでは法律で『貴族の本家において結婚後二年経過しても子供ができない場合、当主は無条件に離縁して後妻を娶る権利を与えられる』と定められております」
「それは俺が享受する権利であり、お前が行使する権利ではない」

 テオドールの眼差しが一層冷たいものへと変わる。

(怖気づいちゃだめ!)

 恐怖でびくっと震えそうになる自分を叱咤して、リーゼロッテはテオドールを見返す。