あの突然の婚約破棄から既に一週間が経った。リーゼロッテの父であるオーバン公爵は帰宅して事の顛末を知るとひどく驚き、この件は何かの勘違いによる誤解だと再三にわたって貴族院に申し立てた。しかし、その請求は調査されるまでもなく却下された。

 公爵である父の請求がこんなふうに無下にされるなど、異常事態だ。なんらかの大きな権力による力──おそらく王族の意向が動いていると考えるのが自然だ。

「だからってこんな……。酷すぎます!」

 シャーロットはスカートの上でぎゅっと拳を握り締め、怒りに震える。リーゼロッテはその様子を見て、口元を綻ばせた。

「ねえ、シャーロット。あなたがこうやって自分のことのように怒ってくれるから、わたくしはそれだけでとっても幸せよ。それに、あなたとオスカー様なら何も心配いらないもの。だから、この家をよろしくね」
「お姉様……」

 シャーロットはリーゼロッテを見つめ、目にいっぱいの涙を浮かべる。
 リーゼロッテはふたり姉妹の姉に当たる。将来はこのオーバン公爵家を夫となる人と切り盛りしようと、必死に勉強して努力してきた。けれど、この度の一件でイラリアから目を付けられた上に社交界にも醜聞が広がってしまったため、自らその立場を辞退することにした。

 自分のせいでオーバン公爵家そのものが王室から睨まれることは絶対に避けたい。イラリアがリーゼロッテに目を付けたのは十中八九アドルフが原因なので、リーゼロッテが表舞台から消えればオーバン公爵家への関心もなくなるだろう。