(旦那様は、あなたの自己顕示欲を満たすための道具じゃないわ)

 この人は、今の発言がどれだけ人をばかにしているか気づいていないのだろうか。
 アドルフのこともこんな風に軽い気持ちで欲しいと思い、臣下達を使ってリーゼロッテを陥れ、婚約破棄させたのだろう。

「思いません」

 リーゼロッテは必死に怒りを抑え、低い声で答える。

「え?」
「思いません、と申し上げました。テオドール様はラフォン領の領主であり、わたくしの夫です。申し訳ありませんが、他を当たってください」

 きっぱりと告げると、イラリアは大きく目を見開く。まさか、リーゼロッテが歯向かってくるとは思っていなかったのだろう。 

「そう。残念ね」

 冷ややかな口調で言い放つと、イラリアはすっくと立ち上がる。

(諦めた?)

 正直、もっとごねられると思っていたので、リーゼロッテはホッと胸を撫でおろした。