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 自分の隣で眠るリーゼロッテを、テオドールは窺い見る。リーゼロッテはぴったりとテオドールに寄り添いすやすやと寝息を立てていた。
 頭を撫でれば、柔らかな髪の感触がした。


 ──今日の日中のこと。
 テオドールとリーゼロッテはイラリアをラフォン領の婦人会へと案内した。イラリアに実際に伝統的な織物の体験をしてもらい、この地の特産品について知ってもらいたいというリーゼロッテの思いから、ひとつき以上前から関係者と調整して実現したものだ。
 
 それなのに、イラリアの『つまらない』というたった一言で計画は全て台無しになった。そして、当の本人は『ルカードに乗りたい』などとテオドールに臆面なく強請ってきた。

 イラリアはかつてリーゼロッテを陥れた人間だ。それだけでも万死に値するのに、ここに来てからの彼女の態度にテオドールはうんざりだ。

『ヒッポグリフより速く飛ぶのね。グリフォンに乗る幻獣騎士は、イスタール中探してもあなたひとりしかいないらしいわ』
『そのようですね』
『それに、テオドール様は世界最強の幻獣騎士だとか』
『それはわかりかねます』
 最低限の返事しかせずに、苦痛な時間をやり過ごす。
『わたくし、グリフォンに乗る幻獣騎士が近衛騎士に欲しいわ』
『…………』

 お前の近衛騎士になるぐらいならリーゼロッテを連れてこの国を出る、という台詞はすんでのところで吞み込んだ──。

 ふいに、リーゼロッテが身じろぐ。起きたのかと思ったが、目は閉じたままだ。寝にくいのかと思って少し離れると、追いかけるように体を寄せてくる。
 無自覚なその動きにすら、愛おしさを感じた。

(アドルフはよっぽど女の趣味が悪いようだな)