テオドールは辺境伯だ。身分でいえば上は王族と公爵しかいない。いかに王女のお気に入りであろうと近衛騎士団副団長のアドルフよりは格上だ。
 アドルフは一瞬だけ不快そうに顔を歪めたが、すぐにいつもの爽やかな笑顔を浮かべてテオドールに謝罪した。

「では、お部屋に案内しましょう」

 テオドールはリーゼロッテの腰に手を添えたまま、イラリア一行を屋敷内へと案内した。


 ◇ ◇ ◇


 リーゼロッテは窓から外を眺め、はあっと息を吐く。

「まだ三日もあるわ」

 カレンダーに×印をつけ、またため息が漏れる。
 イラリア一行が来て今日で四日目。初日は到着した疲れから部屋で休んでいたのでまだいいとして、その後は彼女に振り回されっぱなしだ。

 まず、滞在する部屋が気に入らないと言い出してテオドールとリーゼロッテを仰天させた。
 イラリアには、この屋敷で一番いい貴賓室を用意していた。しかし、彼女は『景色があまりよくないから三階の部屋がいいわ』と言い出したのだ。

 ラフォン領主館の三階は領主の家族、すなわちラフォン辺境伯であるテオドールやその家族が過ごすためのプライベート空間だ。暗にリーゼロッテと部屋を変えろと言っているのは明らかだった。