「ラフォン領の領主、テオドール=ラフォンです」
テオドールを見たイラリアの目が一瞬揺れ、息を呑んだように見えたのはリーゼロッテの気のせいだろうか。
テオドールはイラリアの前に跪くと、彼女の手を取りキスをする。それはいわゆる社交辞令なのに、リーゼロッテの中でもやもやとしたものが広がった。
──彼に触らないで!
そう言いたい気持ちを、必死に抑える。
「あら、久しぶりね。リーゼロッテ様」
続いてリーゼロッテを見たイラリアは意味ありげな笑みを浮かべる。
「はい。ご無沙汰しております」
「そうだわ。懐かしい人を連れてきてあげたの」
そう言ってイラリアが呼びかけた人を見て、リーゼロッテは息を呑む。
「アドルフ様?」
そこには、かつての婚約者の姿があった。中性的な美貌は今も変わっておらず、傍らにはパートナーのヒッポグリフを連れている。他の近衛騎士より立派な肩章が付いており、彼の地位の高さを伺わせた。
「アドルフ。彼女と会うのは久しぶりでしょう?」
イラリアはさも気を利かせたようにアドルフを呼び寄せて、彼の腕に絡みつく。
(ああ、そういうこと──)
勝ち誇ったような目で自分を見つめるイラリアを見た瞬間、悟った。



