テオドールが現れたのは、そんな会話を一時間ほどした頃だった。

「遅くなって悪かった」

 ルカードに乗って現れたテオドールは急いで来たのか、普段は無造作に下りている前髪が風で後ろ向きに癖がついている。

「いいえ、大丈夫です」

 リーゼロッテはテオドールに笑みを向ける。

「旦那様こそお忙しい中、申し訳ございません」
「いや、構わない。俺も事前に確認しておきたい。では、行くか」

 テオドールに手を引かれ、リーゼロッテは立ち上がる。

「では、私の馬車で先導して案内します」

 会長も立ち上がった。
 工場に向かう途中、リーゼロッテは馬車から車窓を眺める。

(なんだか、いつもと町の様子が違うような……)

 賑やかなことに変わりはないのだが、そこかしこに騎士がいる。こんなにたくさん騎士が出歩いているのを見るのは初めてだ。

「旦那様。どことなくいつもと様子が違う気がするのですが、何かあったのです? その、警邏の騎士が多いような──」

 リーゼロッテは横に座るテオドールに尋ねる。