「だ、旦那様! からかったのですね」

 急激に恥ずかしくなって赤面したリーゼロッテは、上半身を起こしてテオドールを軽く叩こうとする。だが、その手は反対にテオドールに絡めとられてしまった。

「からかった? 心外だな。俺は本気で、心ゆくままにリーゼロッテを愛し尽くしたいと思っている。一晩中、何度でも」

 絡めとられた手を引かれ、体がテオドール側に倒れる。テオドールはリーゼロッテを難なく受け止めると、唇に触れるだけのキスをした。

「このままだとまたリーゼロッテを堪能したくなってしまいそうだから、起きようか。朝食はこの部屋に運ばせる」

 テオドールはリーゼロッテに爽やかな笑顔を向ける。

(だ、旦那様が甘いわ!)

 これまでも優しかったが、段違いな甘さだ。

 テオドールがベッドから立ち上がる。遠ざかりそうになるテオドールの背中を見たリーゼロッテはふと寂しさを感じて彼のガウンの裾を引く。すぐに気づいたテオドールはリーゼロッテのほうを振り返った。

「どうした?」
「旦那様、大好きです」

 昨日、テオドールはリーゼロッテに何度も『愛している』と言ってくれたのに、リーゼロッテは彼にほとんど何も言っていない。それに気づいた彼女がそう告げると、テオドールは大きく目を見開き、額に手を当てる。

「今のはリーゼロッテが悪い」
「え?」

 テオドールはベッドに戻るとリーゼロッテを押し倒し、深い口づけをした。



 結局、リーゼロッテとテオドールが起きて食事を摂り始めたのはもう昼が近いような時間だった。テオドールに誘われて初めて入る彼の私室は、リーゼロッテの私室より一回り大きい。

 執務室は別にあるためか机周りは物が少なく、きっちり整理されている。部屋にはゆったりとしたソファーにダイニングセット、それにシングルベッドも置かれていた。
 そのダイニングテーブルに向かい合って食事を摂っていると、不意にドンドンドンとドアをノックする音がした。ノックするというよりは、叩いていると言ったほうが正しいような大きな音だ。

「誰かしら?」
「見なくとも想像がつく」

 テオドールがはあっとため息をついた次の瞬間、ドアがバシンと開く。

「テオ。何時だと思っているんだ! さっさと執務室に来い!」

 現れたのは、大柄な男性だった。茶色い髪に茶色い瞳で、男らしい雰囲気の人だ。

「あら、あなたは確か──」

 剣技大会で最後にテオドールと戦っていた人だ。幻獣騎士団の団長で、名前は確か──。

「なんだ、奥様と一緒だったのか」

 カルロはリーゼロッテがいることに気づいても、遠慮なくずかずかと部屋に入って来る。

「改めまして、俺はカルロ=グラスルです。ラフォン幻獣騎士団の団長をしています」
「ごきげんよう、カルロ様」