「きみに会いに部屋に行ったとき、ちょうどリーゼロッテは衛兵と一緒に寝室にいて『最悪の気分だ』と──」

 リーゼロッテはしばし考え、蛇が現れたときのことだと気づく。

「え? あのとき旦那様いらしたんですか⁉」

 全く気付いていなかったので、驚いた。

「ああ。それで、俺と結婚するせいで最悪な気分になっていて、衛兵を寝室に誘い込んでいると勘違いした。リーゼロッテが毒婦だという噂が本当だと思い込んでしまったんだ。商工会の会長も間男だと思っていた」
「そんな……」

 リーゼロッテは呆然とする。

「だから、夕食を一緒に摂るのを急にやめると言い出し、その後も会ってくれなくなったのですか?」
「ああ。俺たちの結婚は王命であり、背くことはできない。ならば、お互いに顔を合わせずいないものとして生活するのが最善だと思った」

 リーゼロッテはどうして一度も会ったことがないのにあんなにも避けられていたのかを、だとようやく理解した。

「わたくしは、さぞかし最低な妻だと思われていたでしょうね」

 リーゼロッテはぽつりと呟く。