「それに気づいたのは、結婚式の直前だった。すぐに彼女に確認すればよかったものの、俺は彼女を信じたい一心でそれをしなかった。結婚式当日の夜、初めてそのことを彼女に尋ねると、彼女は逆上して俺の剣を握り締めるとそれを俺に向けてきた」

 リーゼロッテはひゅっと息を呑む。

 信じたいと思っていた女性が自分を裏切っており、刃を向けてくる。なんて残酷な仕打ちなのだろうと、掛ける言葉も思いつかない。

 テオドールによると、彼女は彼の制止を聞かず剣を振り回し、誤って自分を刺してしまったようだ。そして、倒れた弾みに窓から転落して事故死した。

 ただ、その理由をテオドールも屋敷の人間も積極的に言わなかった。子爵令嬢の死は国王に報告したところ、国王が手を回し内密に処理された。
 そのため、事情を知らない人々は、婚約者が死んだ、テオドールがその場にいた、彼は血の付いた剣を持っていた、の3点から『テオドールが婚約者を殺した』という噂が独り歩きして、〝血に塗られた辺境伯〟などという不名誉なレッテルが貼られたのだ。

「そういうことだったのですね」

 リーゼロッテはぎゅっと手を握りしめたままぽつりと呟く。
 思ったよりもずっと重い話で、言葉が出てこない。きっと、根も葉もないでたらめを誰かが吹聴しているだけだと思っていたから。

「それに、きみがここに嫁いできた日、とんでもない勘違いをした」
「とんでもない勘違い?」

 リーゼロッテは首を傾げる。