(もしかして、あれがそのときか?)

 そう考えれば辻褄が合う。となると──。

「……何者かが情報操作したか」

 テオドールはぽつりと呟く。

 ここまで両極端な情報が流れるのは通常では考えにくい。しかも、一方は全くのでたらめの可能性が高い。誰かが意図的にリーゼロッテについての悪い噂を流したとしか思えない。

「俺もそう思う。だが、誰がそんなことをしたのかがわからない」

 カルロはテオドールを見つめ、眉根を寄せる。
 リーゼロッテは公爵令嬢だった。公爵家といえば、王室に次ぐ高位の身分だ。その公爵家を敵に回すようなことを軽々しく行う人間がいるとは思えない。

「考えられるのは、オーバン公爵家以外の公爵家か? しかし、そんなことをする理由がない」

 テオドールは腕を組む。
 リーゼロッテがテオドールと結婚する前、侯爵家の次男で幻獣騎士の男と婚約していたことは前回の調査でわかっている。王太子の婚約者であればいざ知らず、侯爵家の次男と結婚するのであれば他の公爵家の脅威になることもない。それに、オーバン公爵家が他の公爵家と諍いを起こしているという話も聞いたことがない。
 つまり、他の公爵家の差し金という線は薄い。