「ルカード、奥様が乗っても嫌がっていなかったな。俺らだと触っただけで怒りだすのに。ヒッポグリフだけでなくグリフォンも美人が好きなのか……」
「俺が乗っていたからだろう」
「そうか? テオがいても、俺がルカードに触ると怒るぞ」

 カルロは納得いかない様子で腕を組む。


 テオドールが自身の相棒であるグリフォンのルカードに出会ったのは今から十年以上前──まだ十五歳の頃だった。領地を視察中に、羽を傷つけたグリフォンの幼獣を見つけたのだ。すぐ近くにはその幼獣の親と思しきグリフォンの成獣の亡骸が転がっていた。

(幻獣同士の喧嘩でもして命を落としたか?)

 動かない親の傍らで座り込む幼獣が哀れに見えて、なんとなく片手を差し出す。すると、意外なことにグリフォンの幼獣はテオドールのほうに歩み寄ってきた。

『お前、一緒に来るか?』

 テオドールは幼獣に尋ねる。幼獣は動かない親とテオドールの顔を何度か見比べ、テオドールの足に前足をかけてテオドールの胸に飛び込んできた。言葉が通じたとは思わないが、気持ちが通じたような感覚を覚えた。

 屋敷にその幻獣を連れ帰ったテオドールは、その幻獣に『ルカード』という名前を付けて可愛がった。そして、ルカードはみるみるうちに大きく成長してテオドールの相棒となったのだ。

 だから、ルカードは幻獣とはいえ非常に幼いときから人に慣れており、特殊な存在だ。成獣をつかまえて飼いならそうとしても、こう上手くはいかないだろう。