部屋にはイラリアの他に何人かの人がいた。メイド服を着たふたりの女性はイラリアの侍女だろう。それに、リーゼロッテの婚約者であるアドルフもいた。
 柔らかそうな茶髪に新緑を思わせる緑眼、どこか中性的な麗しい見目は最後に会った二カ月前となんら変わった様子もない。

 彼の姿を見て、リーゼロッテは少なからずホッとした。万が一例の噂のことをイラリアに尋ねられても、彼がいれば誤解を解いてくれると思ったのだ。

「ごきげんよう、イラリア王女殿下。遅くなり申し訳ございません」

 リーゼロッテはイラリアに向かって、丁寧に腰を折る。顔を上げると、イラリアはどこか含みのある視線をリーゼロッテに向けていた。

「構わないわ。今日お呼びしたのはほかでもない、あなた自身に関することよ」

 部屋のドア近くに立ったままのリーゼロッテに椅子を勧めることもなく、イラリアはゆっくりと話し始める。

「リーゼロッテ様はここ最近、わたくしの侍女達に度重なる嫌がらせ行為をしていたそうね?」

(やっぱりその件についてなのね)

 想像通りの内容に、リーゼロッテはぎゅっと拳を握り締める。

「その件については、根も葉もない噂話にすぎません」

 やましいことは何もない。リーゼロッテはきっぱりと否定した。度重なる嫌がらせなどしていないことは、そこにいる侍女ふたりに聞けばすぐにわかるはずだ。