「大丈夫だ」

 たった一言だけだけれど、不安な気持ちがスーッと消えてゆく。リーゼロッテがおずおずと手を振ると、観衆の歓声もより大きくなった。

 肝心の言葉を言い忘れていたことに気付き、リーゼロッテはおずおずと後ろにいるテオドールのほうを振り返る。

「旦那様。おめでとうございます」

 笑顔で告げると、テオドールは僅かに目を見開き、ふいっとリーゼロッテから目を逸らす。

「ありがとう」

 微かに聞こえた声を、リーゼロッテは聞き逃さなかった。


 ◇ ◇ ◇


 剣技大会を終えたテオドールは自身の執務室へと向かう。同じく自身の執務室へ向かうカルロと一緒だ。

「あーあ。テオ、反則だろ。幻獣がグリフォンとかありかよ」
「お前もグリフォンに乗ればいいだろう」
「簡単に言うけどな、純粋な幻獣って普通は人に懐かないぞ」

 ふてくされた顔で文句を言うのは、本日のエキシビションでテオドールに打ち負かされたカルロだ。

 カルロの言う通り、純粋な幻獣は基本的に人に懐かない。
 幻獣騎士が乗るヒッポグリフはグリフォンと馬を掛け合わせた生き物なので、正確に言うと『幻獣と動物のミックス』なのだ。そのヒッポグリフですら心を許した相手しか背中には乗せない。