「ふふつ。実は今日、剣技大会をやっているのですわ」
「剣技大会? それは何?」

 リーゼロッテは昨年の今頃のことを思い返すが、剣技大会についての記憶がない。不思議そうな顔をするリーゼロッテの様子に、アイリスはすぐに彼女が何を考えているかわかったようだ。

「剣技大会は一年に一回なのですが、昨年はちょうど魔獣の被害を受けた地域の復興支援と時期が被ったので中止になったんです。その前の年は、リーゼロッテ様がいらっしゃる直前に開催されておりました。だから、リーゼロッテ様がここにいらしてからは初めてですね」
「そうなのね」

 リーゼロッテはアイリスの話を聞きながら、相槌を打つ。
 ラフォン領に来て以来この地域について色々学んだつもりでいたけれど、幻獣騎士団の行事までは見ていなかった。

(本当にヒッポグリフに乗ったまま戦うのね)

 普通の馬に乗る騎乗試合であれば、王都にいた頃に何度か見学したことがある。だが、幻獣騎士同士の試合を観戦するのは初めてだ。
 空も飛ぶことができるヒッポグリフに乗った幻獣騎士達の試合は、通常の騎乗試合とは比べものにならないほど迫力があった。リーゼロッテも無意識に拳を握り、固唾を呑んで見守る。

(旦那様は出てこないのね)

 トーナメント形式の決勝戦になっても、テオドールらしき人物は出てこなかった。
 優勝を収めた騎士がガッツポーズをすると、ひと際大きな歓声が起きる。茶色い髪をした大柄な男性は、テオドールではない。

 そのときだ。興奮冷めやらぬ闘技場に出てきた人物を見て、リーゼロッテはドキッとした。