しばらく歩いたのちに辿り着いた王族のプライベートスペースへと続く廊下の前には、近衛騎士が数人、立哨(りっしょう)していた。

「イラリア王女殿下に拝見したく」

 声をかけられた近衛騎士は手元の書類を捲る。王族達の本日の予定表だ。

「お待ちしておりました。お部屋にご案内します」

 話は既に通してあったようで、近衛騎士は書類を脇に抱えるとリーゼロッテに付いてくるように促す。案内された部屋は、王宮にある貴賓応接室のひとつだった。

「リーゼロッテ=オーバンです。ただいま参りました」

 ノックしてから声をかけると、ドアが少し開いて侍女と思しき女性が顔を出す。

「どうぞお入りください」
「はい」

 侍女に促されて、リーゼロッテはイラリアの部屋に入室する。

「よく来たわね。ごきげんよう、リーゼロッテ様」

 イラリアは、部屋の中央にある天鵞絨張りのソファーにゆったりと座っていた。リーゼロッテを見つめ、少しだけ口の端を上げる。