自分の見た目の良さには自信がある。

 幼い頃から『天使のようだ』と言われたし、思春期以降は頬を赤らめた令嬢に声を掛けられるのは日常茶飯事、少し優しくすれば、どんな女もころりと手のひらに落ちてきた。

 そんなアドルフに転機が訪れたのは十七歳、そろそろ騎士学校を卒業する間近となった時期だった。

「お前に縁談が来ている」

 父であるラット伯爵に呼ばれて告げられたのは、何度聞いたかわからない言葉。

「残念ですが、俺はまだ結婚は考えておりません。お断りを──」

 十七歳など、まだまだ遊び足りない時期だ。アドルフもいつもの言葉を返せば、ラット伯爵は「まあ、待て」とその言葉を遮った。

「この縁談は今までのものとは違う。またとない良縁だ」

 まっすぐにこちらを見据えるラット伯爵の視線に、アドルフは押し返しかけていた釣書を開く。最初に目に入ったのは、人形のように整った見目をした美しい少女だった。赤みを帯びた金髪が印象的で、はにかむような笑顔をこちらに向けている。

「オーバン公爵家のご息女だ」
「オーバン公爵家?」

 公爵家といえば、言わずと知れた貴族の最高位だ。イスタールに公爵位をもつ家門は五つしかない。そして、記憶が正しければ、オーバン公爵家には子息がいなかったはず。

 釣書から視線を上げると、ラット伯爵としっかりと目が合う。ラット伯爵は無言で頷いた。

「オーバン公爵はお前を婿養子に、と希望されている」