そのとき、近くの草の茂みからカサッと音がした。
 テオドールはそちらを見る。一匹の蛇がこちらに近づこうとしていた。

「なんだ、蛇──」
「いーやー!」

 なんだ、蛇か。と言おうとしたテオドールの声を遮るように、耳をつんざくような悲鳴が上がる。

「嫌、嫌、いやー! 蛇、へーびー!」

 リーゼロッテは取り乱してテオドールにしがみつく。

「おい、落ち着け」

 まるで子供のような怖がりようだ。よく見ると、目には涙が浮かんでいる。

(仕方ないな)

 テオドールは腰に佩いている剣を抜いて蛇に投げつける。

「もう大丈夫だぞ。死んでいる」

 リーゼロッテはようやく落ち着いたように、胸を撫でおろす。

「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません。昔、蛇に噛まれたことがありまして。痛いし、熱いし、何日も熱を出して、それ以来蛇が大嫌いなのです」