事件から数日経ったある日、テオドールはふと思い立ってひとりで獣舎へと向かった。商人から買い取った六匹のヒッポグリフがそこにおり、そろそろ幻獣騎士候補生達とマッチングする時期なので様子を見にきたのだ。

「誰かいるのか?」

 獣舎の中に人影が見え、テオドールは声を掛ける。すると、意外な声が聞こえてきた。

「旦那様?」

 それは、質素なドレスを着たリーゼロッテだった。リーゼロッテはヒッポグリフの傍らで立っている。

「何をしている?」
「この子達の様子を見に来ていました。最近、お世話のお手伝いをさせていただいています。ヒッポグリフって可愛いですね」

 リーゼロッテは手を伸ばし、餌を食べているヒッポグリフの首元を撫でる。ヒッポグリフは怒ることなく、気持ちよさそうに目を細めた。

「そういえば、そんなことを朝食の席で話していたな」

 お手伝いと言っても獣舎を一、二度見に行っただけだと思って聞き流していた。実際に世話をしているとは驚きだ。

(本当に懐いているんだな)

 どういう理由で懐かれるのかはよくわからないが、ルカードの言うところによるとリーゼロッテからはいい匂いがして、それが幻獣を引き寄せるようだ。