「ところで、奥様は町に何をしに?」
「商工会に行こうとしていたと。どうやら、会長と約束があったらしい」
「会長って、奥様と噂の?」
「ああ」

 テオドールは腕を組む。

 商工会の会長と言えば、以前からリーゼロッテの愛人の疑いがかかっていた相手だ。屋敷で逢瀬を重ねているという情報が幾度となくテオドールの元に届いていた。

 愛人という情報は嘘であろうことはリーゼロッテを抱いたことでわかっているが、彼女が会長と密会を重ねているのは事実だ。テオドールは念のため、商工会の事務所に何をしていたのか裏とりに行った。
 密会相手の夫、しかもこの地域の領主が乗り込んできてさぞかし慌てるかと思いきや、会長からはまさかの大歓迎を受けた。

『お会いできて光栄です。奥様には本当に世話になりっぱなしで──』
『次々と新しいアイデアを出されて──』
『私財で教育施設も作ってくださって──』

 どれもテオドールにとっては初耳の話だ。そして、満面の笑顔の会長に『領主様の元に本当に素敵な奥様がいらしてくださり、私も嬉しく思います』と祝いの言葉までもらった。
 全くもって想定外だ。

「どうやら、本当にただ仕事の話をしていただけのようだ」
「へえ。間男じゃなくてよかったな」

 テオドールはカルロの相槌を敢えて無視して、話題を元に戻す。

「本題だが、なぜヒッポグリフがリーゼロッテに懐いたのかがわからない」
「まあ、よくわかんねーけどいいんじゃないか。たぶん、幻獣に好かれる体質なんだよ。テオと一緒だな」

 カルロは気にするなとばかりに豪快に笑ったのだった。