数十メートル頭上を、数頭のヒッポグリフが並んで飛んでいるのが見えた。
 ヒッポグリフとは鷹の頭と馬の体を持っており、鷹の頭と獅子の体を持つ幻獣──グリフォンと馬を交配させてできた生き物だ。大きな翼を持ち空を自由に飛ぶこともできるので、馬よりも優れた騎士達の相棒として重宝されている。

 ただ、ヒッポグリフは警戒心が強く、彼らが認めた相手でなければ背中に乗せることはない。そのため、ヒッポグリフに乗る騎士は『幻獣騎士』と呼ばれ、騎士の中でも特別な存在とみなされている。

「あら?」

 リーゼロッテは目を凝らす。一匹だけ、姿かたちが普通のヒッポグリフと少し違うように見えたのだ。足が太いし、体が大きい。それに、胴体部分がもふもふしているように見える。

(あれは何かしら? グリフォン? でも、人が乗っているし……)

 その生き物の背中には、黒い服を着た黒髪の人が乗っていた。
 もっとよく見ようと目を凝らすが、なにぶん遥か上空を飛んでいるのでよく見えない。そうこうするうちに、その不思議な生き物は王宮の裏側へと飛んで行ってしまった。

(うーん、見間違え?)

 幻獣と馬を交配したヒッポグリフであればいざ知らず、幻獣のグリフォンに乗るなど聞いたことがない。リーゼロッテは小さく首を振ると、先を急いだ。