ローテーブルを挟んで向かいに座る男を、リーゼロッテは不思議な気分で見つめた。

(本当にお越しいただけるか不安だったけど……)

 すっきりとした高い鼻梁、冷たそうな印象を与える薄い唇、男性的な輪郭、そして、額にかかった艶やかな黒髪。獲物を狙う肉食獣のごとく鋭い目は、まるで今夜の月のような金色だ。

「ようこそお越しくださいました、旦那様。リーゼロッテでございます」

 リーゼロッテは椅子に座ったまま丁寧に頭を下げると、もう一言付け加える。

「あなたの妻です」

 その男──リーゼロッテの夫であるテオドール=ラフォンの表情がぴくりと動く。テオドールは何も言わず、リーゼロッテを見定めるかのように目を眇めた。

(まるで黒豹みたいね)

 彼が着ている黒色の軍服と触れれば牙を立てられそうな危険な雰囲気が相まって、ごく自然とそんな感想を抱く。
 この人が二年間、自分の夫であったのだと思うと、不思議な気分だ。