「あぁぁぁぁ……」


 ふらふらと自席に戻って、樹里は机に突っ伏した。プロジェクトの進捗について、上司と話し合いをしてきたところである。心がずんと重たい。


「樹里さん、大丈夫ですか。課長に何か言われました?」
「あぁ、いや。そういうわけじゃないんだけどね」


 大樹は心配そうに声を寄越すから、慌ててシャンとし、モニタに向き合った。よそ行きの顔が出来ているだろうか。内心では、酷く焦っている。理由は簡単だ。未だに店が決まらず、時間だけが無情に過ぎていくからだ。季節はもう秋、十一月になっていた。

 美味い店はいくらでもあった。だが、この企画にそぐわないのである。新しい店を訪ねても、味の良いところはもう取材がされ、SNSで話題になっていたりする。『隠れた名店の味』を商品にするこの企画。隠れてなければ意味がない。だから、店探しが難航しているのだった。ここで、舵を切るのも一案か。上司から意見を聞き、樹里はそう感じている。