朱莉とどれくらい一緒にいただろう。それがはっきり思い出せないほどに、見せられたあの画面のダメージは大きかった。 どんな顔をしていたのだろうか。電車の扉が閉まっても、ホームで彼女が苦しそうな顔をしていた。最寄り駅で降りて、ぼんやりと歩く。まるで抜け殻のようだった。


『樹里さん、このことは誰にも言いませんから』
『私のことも、内緒にしておいてくださいね』


さっき朱莉から送られてきたメッセージ。あの子は優しい子だ。事実を受け止め切れなかった樹里に寄り添い、隣にいてくれた。妊娠したって泣くくせに、アイスコーヒーなんか飲まないよ。代わりになって、そう怒ってくれた。それからこうして、まだ優しさをくれる。そのありがたさを感じれば感じるだけ、虚しくて悔しかった。

 でも、絶対に泣いたりはしない。樹里は空を見上げる。今夜は少し、雲が多い。


『ありがとう』
『明日会ってみようと思います』


 戯ける余裕などなかった。苦しくて、逃げてしまいたい。でもこれは、樹里が一人で乗り越えなければいけないことだ。よそ行きの顔を貼り付けられているうちに、千裕にメッセージを送ってしまおう。気持ちが、揺らがないうちに。緊張が高まり、携帯を握る手が汗ばんだ。それを何度もハンカチで拭って、何とか操作する。いつもならスムーズに動く指が、今はやたらと鈍かった。