「え、やだ。樹里さん。大丈夫ですか。私、変なこと言いました?」
「あ、ううん。ごめん、ごめん。気にしないで」
「そうですか? あぁぁ。もう本当に許せない」


 奥さんのこと何だと思ってんだ、と朱莉は口をへの字に折り曲げる。さっきの男――家庭を大事にしなかった男への怒りだ。ブツブツと言っていることは実にごもっとなのだが、正直言って樹里は驚いている。朱莉は、外見だけでチヤホヤされるタイプだ。あぁ香澄のように。だからつい、『この私が何でこんな目に合わなきゃいけないの』とか考えるのではないか。どこかでそう思っていたのである。


「樹里さん……あのね。私、学生の頃、太ってたんですよ。顔なんて真ん丸で」
「へ? そうなの?」


 意外だった。昔から、スラッとした体型なのだろう。運動神経も良さそうだし、太るなんて縁遠い人間だと思っていた。驚きを隠せないでいた樹里に、朱莉は両手で顔の脇に丸を作り、こんなに丸かったの、とお道化る。今のスタイルからは、到底想像できなかった。


「外見なんて気にしなかった。子供の頃は真っ黒に日焼けして、男の子によく間違えられたし。大学で東京に出て、バイトの賄いが美味しくて。それで真ん丸になって。でも、美味しい物があるんだもん。食べるじゃないですか」
「それは、まぁそうね」
「ですよね。だけど、あまりに太り過ぎて。好きな人に笑われて。ムカついたので、痩せて見返してやりました」


 彼女の人生はバイタリティに満ちている。それはとても素敵なことで、魅力的だ。