「斎藤さん。いろいろとすみませんでした」
「ううん。僕は大丈夫。そんなの気にしないで。でも、ごめんね。僕も何かあったらいけないって、感じなきゃいけなかったよ」


 静かな公園で、二人は互いにペコペコと頭を下げた。だが当然、一頻り終われば沈黙は訪れる。樹里はつい緊張をしてしまうが、斎藤は違うのだろう。少し伸びをして、帰りましょうか、といつもの通り微笑むのだ。それが悲しくて、苦しくて、胸が詰まる思いがしていた。


「大丈夫? あ、そうだよね。おじさんと帰るなんて嫌だよね。ごめん、ごめん。気付かなくて」
「え? あっ、いや違うんです」


 ただの乙女心です。とは、流石に言えない。疲れたなぁって思って、と笑顔を貼り付けた。ちょっと無理をしている。
 結末が見えているのに、また勝手に想い、挫けただけだ。斎藤には関係がない話。それに、今は絶対に気付かれてはいけない。ただでさえ、今夜は頭も心も疲弊している。これ以上ダメージを受けるようなことは、避けておきたい。疲れたよねぇ、と人の好さそうな垂れた目尻が樹里に寄り添う。その優しさに小さな胸が揺れると、思わず目を逸らした。


「本当に大変だったねぇ。お疲れ様」
「女って、こういうことがあるから面倒なんですよね」
「男も男で面倒なところはあるよ。それを解決する方法が、違うのかな。でも、あの子。朱莉ちゃん? 彼女はとっても松村さんのことが好きなんだね。あんな風に思ってくれるお友達って、大人になるとありがたいよね」
「そうですね。本当にあの子には助けられてばかりです。斎藤さんのお店に伺った時も、あの子なんです。一緒にいたの」
「あぁ、そうだったんだ。そっか、そっか。本当にいいお友達だね」


 斎藤は、朱莉のことを部下とも、後輩とも言わなかった。友達と言ってくれた。それがとても嬉しい。朱莉は今、一番の友達だ。寂しい時に隣にいてくれるのも、足踏みしているのを鼓舞してくれるのもあの子。同じように彼女に返せているかは悩ましいが、大切な存在である。