朱莉はとても人懐こく、ハッキリとモノを言う性格である。可愛らしい微笑みで、誰にでも意見するのだ。そういえばサークルに入って来た時も、そうだった。

 酒に酔ってニヤニヤしながら、彼女に言い寄った男がいた。周りには頃合いを見て助けようとした者も、どうしようと狼狽えた者もあって、一瞬で女達がピリッとしたのは言うまでもない。それはサークル活動であって、合コンではないからだ。だが彼女は、女達の心配の上を行った。セクハラで訴えましょうか、とあの可愛らしい微笑みでバッサリ切り捨てたのである。あまりの見事さに、女達は呆気に取られた。勿論、樹里もそこに含まれる。そして彼女が凄いと思ったのは、その後だった。今起こったことを気にすることもなく、朱莉は赤ワインをグビッと飲んだ。それから、「わぁ、これ美味しいですね」と樹里たちにキャッキャと笑い掛けたのだ。その時には、あまりの清々しさに拍手が起こったくらいである。

 彼女はきっと、ルールを守らない人間が嫌いなのだ。樹里はそう理解している。


「樹里さん、帰るところですか」
「うん、そう」
「でも、樹里さん。駅、通り過ぎてますよ」
「え?」


 そう言われて、ようやく辺りを見渡す。確かに、乗ろうとしていた駅を通り過ぎているではないか。樹里は、大きく項垂れた。


「じゃあ東銀座まで散歩しません? 私もどうせ浅草線だもん」
「あ、う……うん。そうね。気晴らしに」
「そうですね。気晴らしに(・・・・・)


 何だか含みのある言い方だった。朱莉がそうしたいだけなのかもしれないのに、ついビクビクしてしまう。樹里は急いで、スッと仕事の表情を乗せる。こちらのことには触れないで欲しい。その一心で。

 そんな樹里に、彼女は笑った。見事な平手打ちだったでしょう、と。