「お疲れ様です。樹里さん、もう帰るんですか」


 会社を出るところで、大樹に出くわした。表情は何だか少し暗い。クリスマスに予定がない、と昼間落ち込んでいたから、きっとそのせいだろう。どこか明け切らない暗さを引き摺っているようだった。


「これから斎藤さんのお店に行って、直帰」
「了解です」
「開発部はどう? 上手くやれそう?」
「大丈夫ですよ。僕、何年目だと思ってるんですか」


 ケタケタ笑う大樹に、まぁそうよね、と苦笑した。試食巡りでは、あんなに心強く思っていたというのに。どうも一番の心配の種であったことが拭えない。部下を信用しなければいけないな。そう胸に留めると、メッセージを受信したと時計が振るえる。きっと朱莉だろう。


『クリスマスの予定、決めました』


 何通か続けてきているが、一つ目だけ確認して止めた。この言いぶりでは、もうやることが決定している。樹里の意見は、もう聞かないも同然。時間も場所も指定されているだろう。本当に、あの子らしい。