本格的に開発が動き出して一週間。平日にフルで動き回れば、週末は電池が切れたように眠るだけだった。ここまで来るのに時間がかかった焦りが、これまであったのだろう。ようやく、きちんと心から休めた気がする。


「私は斎藤さんのところへ行って、直帰しますね。何かあれば、連絡ください。あまり無理せず、早めに帰ってね。お疲れ様でした」


 定時を過ぎて、樹里は席に残った人へそう告げた。クリスマス、年末年始と近付いて来ると、やはり皆どこか浮かれている。子供のプレゼントの相談のし合いだとか、新しい恋人ができたとか。聞こえて来るのは、楽しそうな話ばかりだ。ちょっとした意地のような気もしたが、樹里だってデスクに小さなツリーを飾っている。そんなことをすれば、あの曲がすぐに聞こえて来たが、それも承知の上。逃げてばかりじゃ、生きてはいけない。あの曲は、この時期には避けて通ることはできないのである。

 それに、クリスマスは樹里も予定が入っていた。以前から、朱莉に空けておいてと言われているのだ。何をするのかとか、全く知らないけれど、楽しみにはしている。元々予定は何もなかったし、これから入るとも思えない。まぁ何もなくても、何かしら予定を無理矢理に詰め込もうとは思っていたが。あぁもしかすると、朱莉はそれを見透かしているかも知れないな。


「もうクリスマスか」


 迎えるのが怖かったシーズンを今生きている。あの曲に怯える日々を想像していたが、幸いにして忙しく、そう感じる間もなかった。背筋を伸ばし、カツカツと歩く。いつもより、速度が上がっていることには気付いている。ちょっと素敵な人に会いに行く。それくらいの気持ちで、今はほんの少しだけ足取りが軽やかなだけだ。