「松村さんとおっしゃったわねぇ。ご結婚されてるの?」
「母さん、失礼だよ」
「あぁ、いえ大丈夫です。独身なんですよ」
「ごめんなさい。もう、ホント黙って」
見合いでも進めて来るような話しぶりだった。斎藤も、止めなければと思ったのだろう。母親の口を塞ごうとする攻防が、目の前で行われている。幼子ではなく、五十を過ぎたという息子と。この光景がちょっと異質なのは、その隣で父親が静かに茶を啜っていることである。恐らく、これが斎藤家の日常なのだろうと思った。
「では、早速ですが、お話を始めてもよろしいでしょうか」
「はい、お願いします」
笑いの余韻を残しながら、樹里が資料を広げる。斎藤は、ホッとしたように頷いた。恐らく、無理矢理にでも進めなければ、母親の話に終わりはないのだろう。樹里はアイコンタクトを取りながら、彼に呼応するように頷いた。
「まずは、発売までの期間について。資料のこちらになります」
場が落ち着いたところで、説明を始める。母親はスッと眼鏡を掛け身を乗り出し、ふんふんと話を聞き始めた。彼女の切り替えのスイッチは、早いようだ。父親は相変わらず、静かに茶を啜っている。
数ページに纏めた資料を一通り説明し、上がった質問は都度回答した。彼ら、特に母親が納得できるまで、丁寧に行ったつもりだ。だが印象としては、父親の返答待ちといったところだった。恐らくこの家族は、重大な結論は全て父親がするのだろう。母親だけが前面に出ているようでいて、そうでない。大事な場面では、父親を立てる。そういう家族なのだろうと感じている。
「今すぐにご決断いただかなくても、大丈夫です。是非、ご家族で納得いくまで話されてください。疑問点があれば、いつでも参りますので。こちらとしましては、良い結果をいただければ幸いに思います」
深々と頭を下げた。釣られたのか、正面で母親も頭を下げている。ただ、父親だけは黙ったまま。腕を組んで何かを考えているようだった。
「母さん、失礼だよ」
「あぁ、いえ大丈夫です。独身なんですよ」
「ごめんなさい。もう、ホント黙って」
見合いでも進めて来るような話しぶりだった。斎藤も、止めなければと思ったのだろう。母親の口を塞ごうとする攻防が、目の前で行われている。幼子ではなく、五十を過ぎたという息子と。この光景がちょっと異質なのは、その隣で父親が静かに茶を啜っていることである。恐らく、これが斎藤家の日常なのだろうと思った。
「では、早速ですが、お話を始めてもよろしいでしょうか」
「はい、お願いします」
笑いの余韻を残しながら、樹里が資料を広げる。斎藤は、ホッとしたように頷いた。恐らく、無理矢理にでも進めなければ、母親の話に終わりはないのだろう。樹里はアイコンタクトを取りながら、彼に呼応するように頷いた。
「まずは、発売までの期間について。資料のこちらになります」
場が落ち着いたところで、説明を始める。母親はスッと眼鏡を掛け身を乗り出し、ふんふんと話を聞き始めた。彼女の切り替えのスイッチは、早いようだ。父親は相変わらず、静かに茶を啜っている。
数ページに纏めた資料を一通り説明し、上がった質問は都度回答した。彼ら、特に母親が納得できるまで、丁寧に行ったつもりだ。だが印象としては、父親の返答待ちといったところだった。恐らくこの家族は、重大な結論は全て父親がするのだろう。母親だけが前面に出ているようでいて、そうでない。大事な場面では、父親を立てる。そういう家族なのだろうと感じている。
「今すぐにご決断いただかなくても、大丈夫です。是非、ご家族で納得いくまで話されてください。疑問点があれば、いつでも参りますので。こちらとしましては、良い結果をいただければ幸いに思います」
深々と頭を下げた。釣られたのか、正面で母親も頭を下げている。ただ、父親だけは黙ったまま。腕を組んで何かを考えているようだった。

