「で、もう一個気になったんだけど」
「はいはい。何?」
「クリスマスで落ち込んだって、何の話?」
「あぁ……それは」


 触れられたくないジングルベルが、また陽気に歌い出した。頭を振ったくらいじゃ止まってくれない。そして同様に、朱莉もまた諦めてはくれない。クリスマスって楽しい日じゃん、と言いながら、樹里が話すのを待っている。


「朱莉、外出られる?」
「出られますよ」
「よし、じゃあ五反田のあそこ行こうよ。サークルで行ったところ。あそこなら、もうやってるでしょ」
「了解。じゃあ、すぐ出るよ。樹里ちゃんも急いで出てよね」
「はいはい。じゃあ、駅でね」


 電話を切って、すぐに鏡の前に立った。気の抜けた、酷く不細工な顔がそこにある。パシンと両頬を叩いて、樹里は一気に化粧を仕上げた。今から行くのは、大衆居酒屋のような店だ。薄化粧で構わない。最低限の荷物を詰めて、樹里もすぐに部屋を出る。隣の扉を横目で見ながら、駅へと急いだ。