〇病院・病室(夜)
  ベッドにシャルル・サガンが寝ている。
みな、モノローグ「女の子はドラマチックな展開を期待する」
みな、モノローグ「例えば、傷ついた男子がベッドで寝ている」
みな、モノローグ「喧嘩なのか、何か」
みな、モノローグ「女の子は傷ついた男子の看護をする」
  ベッドの横に吉田まきが立っている。全身シャネルのボーイッシュなヘアスタイルの中年女性がいる、梅村晴子(42歳)、イヤリングをしている。原宿みな、立っている。
まき「またワルキューレの仕業ですね」
みな、モノローグ「ワ、ワルキューレ」
梅村「・・・・・・」
まき「どうにかならないんですか、校長」
梅村「ワルキューレの幹部の父兄は政財界トップだからね。どうにもできない。いっぱい学園に寄付してもらってるし」
  まき、ため息をつく。
みな、モノローグ「例えば生徒指導の吉田まき先生は、タイトスカートにヒールをはいて、まるでドラマに出てくる女性刑事みたい」
みな、モノローグ「例えば校長先生はシャネラーで派手だ」
みな、モノローグ「ますますやくざ映画みたくなってきた」
  サガン、うめいている。
まき「ん」
サガン「ママン」
みな「!」
  一同、サガンを見る。
  サガン、目を覚ます。大きく切れ長な青い目。サガン、きょろきょろする。
サガン「漫画は、漫画は」
まき「シャルル君、落ち着いて、落ち着いて」
  がらがら、病室のドアが開く。スーツに短髪の中年男性、近藤(いさみ)(30歳)が現れる、こわもて。近藤、学ランと、リュックを持っている。
みな、モノローグ「例えば生徒指導の近藤先生は新選組の近藤(いさみ)と同姓同名でこわもてだ」
  サガン、起き上がる。
まき「あ、こらこらシャルル君」
  近藤、晴子に向く。
近藤「校長先生、服と、荷物は見つけました」
晴子「そう」
サガン「漫画は、漫画?」
  近藤、うつむく。
  サガン、うなだれる。
サガン「終わった」
まき「バカねえ、まだはじまっちゃいないじゃない」
みな、モノローグ「どっかで聞いたことあるセリフだあ」
みな、モノローグ「確実にやくざ映画に近づいてるよ」
  サガン、顔をあげる。笑顔になる。
  サガン、みなに向く。
サガン「君は?」
まき「この()が、君を発見したのだよ」
  サガン、笑顔になる。
サガン「ブラザー」
みな、モノローグ「ブ、ブラザー!」
サガン「ブラザーと呼ばせてもらうよ」
みな、モノローグ「あ、いや、勝手に呼ぶなよ」
みな「あ、ああ、はいはい」
みな(ああ、「はい」っていっちゃった)
みな(つい流れっていうかあ)
サガン「君は漫画好き?」
みな「え」
まき「シャルル君は漫画家になるために日本に来たんだ」
みな「へえ」
サガン「ねえ、知ってる?フランスじゃ日本の漫画は高すぎて、手が届かないんだ」
みな「そ、そうなんだ」
サガン「でも日本に来て、びっくりしたよ。ブックオフとかで、ただで読めるんだもん」
みな「ああ、そうなんだ」
みな「ああ、そういやあ、「漫画は、漫画は」って言ってたよねえ」
  サガン、うつむく。サガン、顔を上げる。
サガン「実はストロベリー・コミックスっていう雑誌に漫画を持ち込もうと思って描いてたんだ」
みな「へえ、すごおい」
サガン「だけど、マドモワゼルたちに・・・・・・・」
みな(ま、マドモワゼル、女子のことかなあ。私のことはブラザーっていったよねえ。男扱いいいいい)
  サガン、うつむく。
みな「え、どうなったのお」
まき「そっかあ。不良女子のやつらにやられっちまったかあ」
みな「ふ、不良女子いいいいい」
サガン「マドモワゼルたちは、お前みたいな性格悪い奴が書くもんじゃないっていうんだ」
みな「?」
みな「それって、いったい、どういう?」
サガン「よくわからない。とにかくお前みたいのが書くもんじゃない、とか、中身が備わってないとだめなんだ、とか言ってくるんだ」
みな「?」
サガン「他にも、漫画描いていいのは?とか、中身イケメンじゃないとだめなんだあ、とか、かっこいいのに、とか、性格悪いやつがあ、とか、性格最悪なのに、とか言ってくるんだ」
みな「なぜ?」
サガン「わからない」
みな「うーん」
みな「で、漫画は」
サガン「どうやら、マドモワゼルたちに、破かれて捨てられちゃったみたい」
みな「ええええええええええええ」
みな「ひどおい」
まき「シャルル君、漫画ならまた描けばいい」
サガン「(笑顔で)うん」
  みな、笑顔になる。
みな「そうだよ。また描けばいいよ。ひどいこというねえ」
サガン「うん」
みな「なんでそんなこというのかなあ」
サガン「さあ」
みな「漫画はさあ、自分で描きたいんだよねえ」
サガン「うん」
みな「じゃあさあ、誰にも許可なんていらないよねえ」
サガン「そうだねえ」
みな「じゃあ、なんで「漫画描いていいのは?」とかいうんだろう」
  サガン、考え込む。
みな「ま、まあ自分で勝手に描けばいいよ」
サガン「そうだねえ」
  みな、笑う。
みな「性格悪い奴が描くもんじゃないってのもおかしいよねえ」
サガン「うん」
みな「シャルル君が性格悪くて、それでいて漫画描くのがおかしいってことだよねえ」
サガン「(うつむいて)うん」
みな「ひどいねえ」
サガン「うん」
みな「言ってることもわからないね」
みな「中身イケメンじゃないとだめなんだっていうのも意味わかんないね」
サガン「うん」
みな「おまえみたいのが描くもんじゃない、とかも言ってくるんだよね」
サガン「そうなんだ」
みな「おまえみたいのって?」
サガン「わからない」
みな「フランス人ってこと?」
サガン「そうかなあ」
みな「何言ってるかわかんないね」
サガン「うん」
みな「女子たちにそんなこと言われるわけ?」
サガン「ムッシュにも言われるけど。だいたいマドモワゼルたちかなあ」
みな「そうなんだ」
みな、モノローグ「シャルル君の描いた漫画ってどんなだろう」