「そんでさー、まゆりがどうしても今日のダンスコンテストの応援に来るってきかないんだよ」
「まゆりって、あのお嬢様の佐藤まゆり? そういや和樹ってまゆりと仲いいよな」
「まあ、あいつとは幼馴染だかんな」

「和樹たちのクラスって、女子の顔面偏差値高いけど、佐藤まゆりは断トツで可愛いってうちのクラスでも噂だよなっ」と、一弘がもちあげ「そうそう。うちのクラスにも佐藤まゆり推しのやつ結構いるぜ」と、雄太が頷く。

 和樹たちのクラス。
 それはつまり、和樹と幸樹のクラスであり、樹のクラスでもある1組のことだった。

「そんな可愛いか? オレは小さい頃から見てるから、あんまわかんねーけど。しっかし、まいるよなー。来んなって言ってんのにさー」
「コンテスト後、告られるに一票」
「オレも一票」
「オレも!」
「マジかー。うぜーな」
 まんざらでもなさそうに、和樹がけけっと笑う。

 まるで樹なんかいないみたいに、輪になって会話を続けるメンバーたち。
 お前の居場所はないと、和樹と幸樹が無言の圧力をかけてくる。

 樹はドアに近い場所で、黙々と衣装に着替えた。

 なんでこんなことになってしまったんだろう。
 オレはどこで間違えたんだろう。
 考えてもわからない。

(とにかく、ダンスに集中するんだ)
 ダンスでメダルを獲れば、きっとまた前みたいに戻れる。
 樹は控室の隅で、ダンスのフリを確認することに専念する。

 去年の櫻野ダンスコンテストは、小学生の部で五位入賞だった。
 そして、小学生の部出場の最後となる来年、つまり今年こそは、三位以上に食い込んでメダルを獲ろうぜと、メンバー同士固く誓い合った。

 もちろん、樹もそのつもりで頑張ってきた。
 それなのに。