和樹が怒るのは最もだ。
 場当たりは、本番直前の大事なリハーサル。ステージの広さや照明、音響をチェックしながら、実際に曲を通しで踊り、フォーメーションや動きをステージの広さに合わせて微調整する。
 特にフォーメーションチェンジは、狭い公民館の練習室とステージでは違ってくるから、大きく位置を変えることだってある。

「まずは……」と、高桑先生が樹に向き直って説明を始めた。
 控室の後方の椅子で、和樹を中心に、幸樹、一弘、雄太が樹を見ながら、ひそひそ話し込んでいるのがわかる。
 ズキンと、樹の胸に鈍い痛みが走った。

「で、ここのライトが……だから、お前は特にセンターで……ちゃんと聞いてるか?」
「あ、はい」
 慌てて返事をして集中しようとするのに、和樹たちの言動が気になって、高桑先生の話は、耳をすり抜けていってしまう。

「まあ、樹なら大丈夫だ」
 ほうっと息を吐いた高桑先生は、困ったような励ますような顔でポンと樹の肩を叩いて「先生、これから音響と照明の最終打ち合わせがあるから行くな。衣装に着替えとけよ」と、出て行ってしまった。

 狭い控室にピリピリした空気が張りつめる。

 なんとか場を和まさなきゃと、樹はいつものように「みんな、遅れてホントごめん!」と明るくぱちんと手を合わせた。

「ちょっと用事があってさ」
「別っつにぃ」と和樹。

「今に始まったことじゃねーよなぁ。オレら暇人と違って忙しいんだろ? つか悪かったな、オレら暇人に付き合ってダンスコンテストに出場していただいてさ」
「そんな、オレは別に」
「なあなあ、和樹、それで?」
 樹の言葉にかぶせて、幸樹が和樹に話しかけた。
 まるで、樹がいないみたいに振舞う幸樹。
 もともとお調子者の幸樹は、樹をのけ者にすることを楽しんでいるようだった。

 和樹と幸樹のあからさまな態度と違って、一弘と雄太は、困ったような薄い笑いを張り付かせながら、しかし、樹から視線を外してやり過ごしていた。