「ねぇ、宏海ちゃん、何か知ってる? おじさん、今日ずっと変なんだよねぇ。でも、私が聞いても教えてくれないの」

 可愛らしい内緒話だった。姪に話したくないくせに、簡単に気付かれるほど上機嫌だったのか。つい、まぁくんを見てニマニマと頬が緩む。もしかしたら、これから進展するような話になるのかな。そう思い至った時、恋じゃないかと思うんだけど、と千夏が言った。思わず、は? と声が出てしまった。あまりの名探偵ぶりに、あんぐりと開いた口が塞がらない。なんて顔してるの、と笑われたけれど、恋愛の現役世代は敏感だ。妙に感心している。

「余計なこと話してんじゃねぇ、千夏。ほら。持ってけ」
「はぁい」

 まぁくんにベェっと舌を出して、カレーを乗せたトレーを持った千夏が背を向けた。まぁくんは呆れたように溜息を零したが、僕はそれが可笑しくて「大きくなったもんだねぇ」って彼女を見つめた。まだまだ可愛いけれど、もう少しすれば立派な大人。そうだな、と返すまぁくんは、叔父の顔をして笑った。

「そうだ。宏海、プリン食える? あっちで復活させようと思ってて」
「本当? おじさん、大変だからってやめちゃったもんね」
「そ。売りが増えるのもいいだろ」

 喫茶店を継ぐ現実が、徐々に近づいてくる。カレー屋を始めようと決めた彼には悪いけれど、あそこが続いくれるのは、本当に嬉しい。まぁくんのカレーは好きだけれど、やっぱりあの店がなくなるのは嫌だから。