「何考えてんのか分かんねぇけどな。好きか嫌いかって言ったら、好きなんだろうな。ただし、友達としてな。お前の好きとは、当然意味が違うぞ?」
自然に俯いてしまった僕の額を、まぁくんはペチンと叩いた。柔らかい眼差しが、実兄よりも兄らしい。くだらねぇこと心配しすぎだ、とグシャグシャに僕の頭を撫でた。あぁ、やっぱりまぁくんには敵わないな。うん、と小さく頷いて、口を真一文字にギュッと結んだ。きっと彼には、カナちゃんへの気持ち全て見透かされている。今どれくらいに彼女を好きなのかも、タイミングを見計らっていることも。
僕にとってカナちゃんは、ずっと好きだった初恋の人だ。だもの、もう一度好きになることなんて、靴紐を結ぶよりも簡単だった。再会して、酒を酌み交わしながら、笑い合って。それだけでも、あの頃の淡い思い出を引っ張り出しそうだったのに。酔った彼女が言った妙な提案。それを僕が断って、別の誰かにすり替わるのが嫌だと思ってしまった。計画を練るうちに、ムキになっていたかもしれない。一緒に住まなくたって良かったのに、その方が良いなんて言っちゃって。少しでも距離を縮めたくなった。生活を共にするようになればすぐ、案の定、僕は彼女を好きになったけれど……カナちゃんはどう思っているのだろう。
「宏海。このままずっと今の関係なんてねぇからな。それが仮に出来たとしても、お前は苦しいままだ。永遠に。それは分かってんな」
「うん……それは、分かってる」
「ならいいけどよ」
また僕の頭を撫で回して、厨房へ戻る背をじっと見つめる。髪の毛が出ないように被っているキャップが、ちょっと似合っていない。何だかそれが可笑しくて、バッグからスケッチブックを取り出して、滲み出た涙を拭って鉛筆を動かした。店内にかかるボサノヴァ。まぁくんが立てる料理の音。それに耳を澄ませながら。
自然に俯いてしまった僕の額を、まぁくんはペチンと叩いた。柔らかい眼差しが、実兄よりも兄らしい。くだらねぇこと心配しすぎだ、とグシャグシャに僕の頭を撫でた。あぁ、やっぱりまぁくんには敵わないな。うん、と小さく頷いて、口を真一文字にギュッと結んだ。きっと彼には、カナちゃんへの気持ち全て見透かされている。今どれくらいに彼女を好きなのかも、タイミングを見計らっていることも。
僕にとってカナちゃんは、ずっと好きだった初恋の人だ。だもの、もう一度好きになることなんて、靴紐を結ぶよりも簡単だった。再会して、酒を酌み交わしながら、笑い合って。それだけでも、あの頃の淡い思い出を引っ張り出しそうだったのに。酔った彼女が言った妙な提案。それを僕が断って、別の誰かにすり替わるのが嫌だと思ってしまった。計画を練るうちに、ムキになっていたかもしれない。一緒に住まなくたって良かったのに、その方が良いなんて言っちゃって。少しでも距離を縮めたくなった。生活を共にするようになればすぐ、案の定、僕は彼女を好きになったけれど……カナちゃんはどう思っているのだろう。
「宏海。このままずっと今の関係なんてねぇからな。それが仮に出来たとしても、お前は苦しいままだ。永遠に。それは分かってんな」
「うん……それは、分かってる」
「ならいいけどよ」
また僕の頭を撫で回して、厨房へ戻る背をじっと見つめる。髪の毛が出ないように被っているキャップが、ちょっと似合っていない。何だかそれが可笑しくて、バッグからスケッチブックを取り出して、滲み出た涙を拭って鉛筆を動かした。店内にかかるボサノヴァ。まぁくんが立てる料理の音。それに耳を澄ませながら。

