「恋って言った?」
「え? そんなこと言った?」
「今、言ったよ。もしかして、好きな人とか出来た?」
「好きな人……?」

 勢いでそんな事を言っていた。すぐに反論が飛んでくる。そう心のどこかで思っていた僕に、この静かな時間は徐々にダメージを与えていく。ここで頷かれてしまったら、一番恐れていた生活の崩壊が始まってしまうのに。何で気軽に触れたのか。自分に怒りが湧いた。ソワソワしている僕に反して、カナちゃんはまだ黙り込んでいる。

「ねぇ、宏海はさ。好きな人……あぁ違うな。恋をしたら、何が何でもお付き合いしたいと思うもの? それとも、少しでも傍にいられたらいいなって思う? 友人として親密度を上げる、というか」

 そんなことを僕に聞く。つまりは、彼女の中で僕は対象外、ということか。誰かに宣言をしたその日に、振られたようなものだ。こんなに一緒に暮らしていても、昔から続く弟のような関係から抜け出せていないんだな。もう可能性はないのだろうか。 

「僕なら……そうだなぁ。まずは距離を縮めたいかな。だって、すぐに告白して振られちゃったら、同じような関係に戻れないかもしれないでしょ? だから慎重にいきたいなぁ」

 今の気持ち、そのままだった。この思いを伝えたい。けれど、この生活は壊したくない。だから今の結論は、すぐにカナちゃんに気持ちを伝えるつもりはないのだ。もう少し距離を縮めて、弟じゃなくって、せめて男として見て欲しい。それが今の願いだった。

 そして、自問する。自分の気持がはっきりと見えた今、僕はどうしていきたいのだろう。カナちゃんに、もし好きな人がいたら。もし、それがまぁくんだったら。僕は、一体、どうするだろう。ただ、一つだけ分かっていることがある。伝えられずに終わった初恋。それを二度も失いたくない。それだけは。