「まぁくんはさ、いい出会いないの」
「あ? ねぇな。別に今のままで困ってもねぇし」
「そんなもんかねぇ……」

 どうか、どこかで恋をしていて欲しかった。仮にそういう相手がいても、まぁくんはきっと僕には言わないだろうけど。言ってくれないからこそ、数十年前の思いを抱えているんじゃないかと思ってしまう。臆病者の不安だ。僕がカナちゃんといられるのは、そもそも彼あってこそ。まぁくんが彼女をここへ連れてこなかったら、僕は会ってさえいない。カナちゃんにとって、彼は友人。僕は、その友人の幼馴染でしかないのだ。だから、僕はずっとまぁくんには敵わない。

「まぁくんにはさ、少し年下がいいよね」
「はぁ?」
「だって、こう甘えたいってよりも頼られたいでしょう?」
「あのな。俺達もう五十なわけ。仮にそういう出会いがあったとて、選り好みなんて出来ねぇし、するつもりもない。だからな、優しいお兄さんが教えてあげるな。宏海くんはまず、自分のことを何とかしなさい。お前……結局はカナコのこと、好きなんだろ?」

 どこか憐憫の眼差しをチラリと寄越し、まぁくんは洗い物を始めた。

 何とかしなさい、と言われたって、僕にはどうすることも出来ない。そもそも、カナちゃんは僕のことなんて何も思っちゃいない。何ならばまぁくんのことを、今も思っている気がする。分かってるんだ。いつだって彼を見るカナちゃんは、想いが募っている瞳をする。今だって、あの頃と同じように。今夜一緒にいる男に勝てたとて、それに打ち勝つのは難題だ。選ばれる自信なんて、あるはずないじゃないか。