結婚しよう、と宏海が賛同してから、私たちは綿密に計画を立てた。まず決めたことは、きちんとお付き合いをしていたということにする、ということだった。もう結婚だとか家族に言わせないこと。それが二人の目標なのだから、相手をちゃんと説得しないといけない。当然籍は入れないのだから、最近デートしている相手がいる、というだけでは弱い。同居して、きちんと『形』を作ろう。やるからには抜かりなく、というのが宏海の考えだった。隣室を借りたら良いのでは、と提案はしてみたのだが、そもそも望む立地に好都合に空いているものでもない。タイミングも悪かったのかもしれないが、そんな現実を見て、私も決意したのだ。もうこうなれば一蓮托生だな、と。
色々話し合い、準備万端にして挑んだ両家への挨拶。籍は入れないのか、という想定質問は、『仕事のこともあり、氏名を変えるのが難儀である』という一点で切り抜けた。うちはまだしも、宏海のところは不満を持つのではと思っていたのだが、あっさり了承されたのは意外だった。もう子どもが出来る年でもないし、純粋に息子の老い先の不安が拭えたということなのだろう。印象的だったのは、どちらの母親もホッとした笑みを覗かせたことだ。恐らく、それだけ心配を掛けてきたという証。これが偽装であっても、彼らを安心させられるという安堵を得たのは大きかった。私たちは友人だけれど、距離感を保って上手くやっていこう。宏海とならば仲良く過ごせると気はしていたし、引っ越しをする頃には新しい生活が楽しみになっていた程だ。
そうして今、私たちは小さく静かな暮らしを細々と維持している。
「いただきます」
二人で向かい合って食べるのにも、随分慣れたものだ。今日あったことを取り留めなく話したりして、そこら辺の夫婦と何ら変わりはないと思う。と言っても、この年の普通の夫婦のそれを知らない。若かったあの頃は、ぽんぽんと会話を投げあって、ケラケラ笑っていたな。それとは違う、温かな時間がここにはあった。
色々話し合い、準備万端にして挑んだ両家への挨拶。籍は入れないのか、という想定質問は、『仕事のこともあり、氏名を変えるのが難儀である』という一点で切り抜けた。うちはまだしも、宏海のところは不満を持つのではと思っていたのだが、あっさり了承されたのは意外だった。もう子どもが出来る年でもないし、純粋に息子の老い先の不安が拭えたということなのだろう。印象的だったのは、どちらの母親もホッとした笑みを覗かせたことだ。恐らく、それだけ心配を掛けてきたという証。これが偽装であっても、彼らを安心させられるという安堵を得たのは大きかった。私たちは友人だけれど、距離感を保って上手くやっていこう。宏海とならば仲良く過ごせると気はしていたし、引っ越しをする頃には新しい生活が楽しみになっていた程だ。
そうして今、私たちは小さく静かな暮らしを細々と維持している。
「いただきます」
二人で向かい合って食べるのにも、随分慣れたものだ。今日あったことを取り留めなく話したりして、そこら辺の夫婦と何ら変わりはないと思う。と言っても、この年の普通の夫婦のそれを知らない。若かったあの頃は、ぽんぽんと会話を投げあって、ケラケラ笑っていたな。それとは違う、温かな時間がここにはあった。

