「何か分かんないけど、頑張ってね」

 ニコニコ、嬉しそうな関根さんを見て、可愛らしいものだと思う。でも、浮かれる様子の彼女を見て、百合は「仕事だということは忘れずに」と釘を刺す。あぁ上司っぽい、なんて思った。

 私にも、関根さんのような可愛らしい時代はきっとあったよな。ただ向かい合っていたのが、牛や馬ばかりだったというだけで。今更そんなふわふわした感情はないし。思い出したとしても、彼女のように高揚することないだろう。仕事が楽しいのなら、それでいい。二人のやり取りに少しだけ口元を緩ませ、ここで唯一買うヨーグルトの蓋を開けた。

「カナコ、それ好きねぇ」
「ん? あぁこれ? 美味しいよ。でもスーパーに売ってないんだよねぇ」
「これ結構評判いいだけどね。地方限定っていうか、あまり大っぴらに出してないんだよね」
「うん、まぁ……そうだろうね」
「ん?」

 私はこれを作っている人を知っている。忌々しい岩手時代の、唯一優しかった牧場だから。それは百合にも言わないが、これをここで見かけてから、これだけは毎回買うようにしている。勝手な感謝のような、あの人達の優しさを思い出すような、そんな代物だった。

「私を救ってくれる、のよね」

 誰にも聞かれないくらいに、小さく、小さく呟いた。