井上さんのところを後にして、三人でご飯を食べて、着いたのは《《例のホテル》》。こんな感じだったかな。キョロキョロと見渡しながらフロントに辿り着く。チェックインは母さんがするようだ。
見渡したロビー。もう二十年以上昔、無邪気にはしゃいでいた気がする。すっかり変わってしまっているが、ぼんやりと思い出したのは、フロントで父がチェックインをしているのを母さんと二人で見ていたこと。その時に、内緒よ、とこっそり飴玉を口に入れてくれたこと。可愛らしい記憶が頬を緩ませた。
「懐かしいでしょう? って、覚えてないか」
「流石にね。ぼんやり思い出せる感じ。はしゃいでたよな、とかさ。あれ? 宏海さんは?」
「ん、何か聞きたいことがあるみたいよ」
そう言った母さんが指さした先に、フロントで話している宏海さんが見えた。
「カナタ」
「ん?」
母に呼ばれて振り向いたら、口開けて、と小さな声。
「ふふふ。内緒よ」
宏海さんから俺を隠すようにして、飴玉を放る母。いい年して恥ずかしかったが、幸せそうに笑った母に僅かに視界が歪んだ。こんな昔のこと、母さんも覚えていたんだ、と。
見渡したロビー。もう二十年以上昔、無邪気にはしゃいでいた気がする。すっかり変わってしまっているが、ぼんやりと思い出したのは、フロントで父がチェックインをしているのを母さんと二人で見ていたこと。その時に、内緒よ、とこっそり飴玉を口に入れてくれたこと。可愛らしい記憶が頬を緩ませた。
「懐かしいでしょう? って、覚えてないか」
「流石にね。ぼんやり思い出せる感じ。はしゃいでたよな、とかさ。あれ? 宏海さんは?」
「ん、何か聞きたいことがあるみたいよ」
そう言った母さんが指さした先に、フロントで話している宏海さんが見えた。
「カナタ」
「ん?」
母に呼ばれて振り向いたら、口開けて、と小さな声。
「ふふふ。内緒よ」
宏海さんから俺を隠すようにして、飴玉を放る母。いい年して恥ずかしかったが、幸せそうに笑った母に僅かに視界が歪んだ。こんな昔のこと、母さんも覚えていたんだ、と。

