「直《なお》くんは、動物が好きなんだね」
まだ暑い九月。ほんのりと秋に近づく木々を前にして、横で蹲った少年にそう問うた。出会って、まだ一時間ほど。こんなおばさんに、すぐに心を開いてくれるとは思っていない。
「あ……えっと」
そう言って黙り込んだ少年の瞳は、忙しく揺れ動く。何かを話したい。でも、言えない。そんな葛藤があるのか。小さな拳に、僅かに力が入る。きっと、それが答えだ。
私は今日、宏海と小田原に来ている。結婚しても、特に変化のない日々。こうして共に出かけることすらあまりなかったから、まぁ初めての旅行だ。ちょうど小田原に来る日であったし、それならば、と足を伸ばしたのがここ、宏海の友人である井上さんの工房である。
井上さんは、木工作家さんだ。プロポーズの際、腕時計の箱を作ってくれたらしい。初めに案内された工房は、木材の爽やかな匂いがした。工具。木屑に鉋屑。赤子が遊ぶような、つるりと整えられた積み木。少し話しただけでも『いい人』だと分かる彼には、とても似合っていると思った。作業場を拝見して、そこでお茶をいただいて。ペット用の家具なんかの話をしていたら、彼――中学一年生だという息子が話に食いついて来たのである。どうも、私の獣医という職業が気になったようだった。まだ幼い顔をした、可愛らしい少年だ。真っ黒に日焼けした肌がとても健康的で快活そうである。
けれども、ふとした時に表情が曇るのが気になった。
まだ暑い九月。ほんのりと秋に近づく木々を前にして、横で蹲った少年にそう問うた。出会って、まだ一時間ほど。こんなおばさんに、すぐに心を開いてくれるとは思っていない。
「あ……えっと」
そう言って黙り込んだ少年の瞳は、忙しく揺れ動く。何かを話したい。でも、言えない。そんな葛藤があるのか。小さな拳に、僅かに力が入る。きっと、それが答えだ。
私は今日、宏海と小田原に来ている。結婚しても、特に変化のない日々。こうして共に出かけることすらあまりなかったから、まぁ初めての旅行だ。ちょうど小田原に来る日であったし、それならば、と足を伸ばしたのがここ、宏海の友人である井上さんの工房である。
井上さんは、木工作家さんだ。プロポーズの際、腕時計の箱を作ってくれたらしい。初めに案内された工房は、木材の爽やかな匂いがした。工具。木屑に鉋屑。赤子が遊ぶような、つるりと整えられた積み木。少し話しただけでも『いい人』だと分かる彼には、とても似合っていると思った。作業場を拝見して、そこでお茶をいただいて。ペット用の家具なんかの話をしていたら、彼――中学一年生だという息子が話に食いついて来たのである。どうも、私の獣医という職業が気になったようだった。まだ幼い顔をした、可愛らしい少年だ。真っ黒に日焼けした肌がとても健康的で快活そうである。
けれども、ふとした時に表情が曇るのが気になった。

