「あ、またあの子?」
「そう……めげないわよねぇ。もうサッと違う人のところに行けばいいのに」
「カナちゃん、トゲが出てる」
「あら、ごめん」
「まぁ仕方ないよね。僕の息子(・・・・)が魅力的だから」

 そう言って、宏海はプンスカ怒っている。僕の息子、か。なんて明け透けで、温かいのだろう。それが私にとってどれだけ嬉しいことなのか、彼はきっと知らない。

 今、私の悩みのタネである関根さん。彼女がこうしてメッセージを送ってくるのは、私がカナタの母だからである。言うつもりなどなかったけれど、飲みの席での彼女の対応に腹が立ちキレてしまったのだ。この子は私の息子です、と。それからというもの、彼女からは度々連絡が入るようになってしまった。自分で作ったらしいお弁当のアピール。食事や飲みに誘う。もう全てがカナタを手に入れたいのが見え見えで、一周回って尊敬すらしてしまいそうだ。

「いい加減、諦めないのかねぇ」
「無理よ。何だか知らないけど、カナタのこと本気みたいで。母から攻略しようとしてるみたい。そんなの聞いたことないわよ」
「そうだねぇ。さて、カナちゃん。これ飲んだら、ご飯作るの手伝って」
「えぇぇ……」
「パスタ茹でたり、調味料と和えたりくらい出来るでしょう。ほらほら、暁子さんたち来ちゃうよ」

 ママみたいな宏海に、はぁい、と返事をする。今日はここのお披露目会だ。そろそろ暁子と五十嵐くん、それからカメラマンの丈くんが来る。楽しいな、幸せだな。そう思っているのは、まだ内緒。

 思い付きで始めた宏海との偽装結婚生活は、蓋を開けてみたら後悔ばかり。宏海の好きな人。私の過去。それを考えて、自分で選んで決めたことだった。こうして結婚をしたのも、何もかも選択したのは私。もし、これでまた離婚するようなことになっても。宏海に裏切られるようなことになっても。後悔したとて、誰かを責めるつもりはない。そう選んで、決めたのは、他の誰でもない。だって、そう決めたのは私、だから。