戸惑っていた表情が、瞬時に変わる。真剣な眼差しの宏海が頷き、私の鼓動が早まった。そうだよな。いや、違うのか。その行ったり来たりを、今も私は何度も繰り返す。それは結局、どちらにも強く核心が持てなかったからだ。傷つけてしまうかもしれない。だけれども、本気でこの先に進むのならば、今きちんと確認しなければいけない。
「それは、本気の……いや、えっと。その普通の? 結婚を、ということでしょうか」
「普通の?」
「その……隠れ蓑、的なものではなくて。普通の夫婦に、という……こと?」
「隠れ蓑? 隠れ蓑って?」
「いや……えっと、その……傷つけたら申し訳ないんだけど。宏海ってずっと、匡のことが好きだよね?」
オブラートに包む方法が見つからなかった。彼の隣で匡が口をあんぐりと開き、私を見ている。変な汗が、額から吹き出した。やっぱり、触れてはいけなかったのだろうか。顔を上げられないまま、答えを待つ。その気不味い空気を壊すように、え? と間の抜けた声が聞こえた。
「まぁくんのこと? そりゃ好きだよ。幼馴染だし」
「……それだけ?」
「え? うん。当然」
宏海は、いつも通り。表情から察するに、この言葉に嘘は含まれていない。あぁあ、私は何を見てきたのだろう。あの頃感じていたことは、間違っていないと思っていたのに。肺の中いっぱいの空気を、一気に吐き出した。
「まさか、カナコ。本気で、宏海が俺のことを好きだとでも思ってたのか」
「……うん。宏海って、いつも匡を見てたから。高校生の頃に、あぁそうなんだなって思って。言えないよなって。それで再会した時、同じように匡の話を幸せそうにしてて。あぁ、そっかって。だから……この生活を始めても、割り切っていけるって思って」
正直に、暴露する。紛れもない本心だ。 ひどい話だと思うし、非難されても仕方がない。
「あのな。カナコ。宏海はずっと、お前のことが好きだったぞ?」
「……は」
「まぁくん、何で言うの。今言わなくたっていいじゃん」
「だって、そうだったろ? 宏海の初恋はカナコ。でもなかなか会えなくなって、今みたいに便利な時代でもなかったし。落ち込んで、落ち込んで。なぁ」
「あぁぁ……まぁくん。そこまで言わなくたっていいのに」
べそかいた宏海がキッと匡を睨む。耳まで赤くしたおじさんは、恥ずかしそうに私を見た。それは、あの頃のようだった。
「それは、本気の……いや、えっと。その普通の? 結婚を、ということでしょうか」
「普通の?」
「その……隠れ蓑、的なものではなくて。普通の夫婦に、という……こと?」
「隠れ蓑? 隠れ蓑って?」
「いや……えっと、その……傷つけたら申し訳ないんだけど。宏海ってずっと、匡のことが好きだよね?」
オブラートに包む方法が見つからなかった。彼の隣で匡が口をあんぐりと開き、私を見ている。変な汗が、額から吹き出した。やっぱり、触れてはいけなかったのだろうか。顔を上げられないまま、答えを待つ。その気不味い空気を壊すように、え? と間の抜けた声が聞こえた。
「まぁくんのこと? そりゃ好きだよ。幼馴染だし」
「……それだけ?」
「え? うん。当然」
宏海は、いつも通り。表情から察するに、この言葉に嘘は含まれていない。あぁあ、私は何を見てきたのだろう。あの頃感じていたことは、間違っていないと思っていたのに。肺の中いっぱいの空気を、一気に吐き出した。
「まさか、カナコ。本気で、宏海が俺のことを好きだとでも思ってたのか」
「……うん。宏海って、いつも匡を見てたから。高校生の頃に、あぁそうなんだなって思って。言えないよなって。それで再会した時、同じように匡の話を幸せそうにしてて。あぁ、そっかって。だから……この生活を始めても、割り切っていけるって思って」
正直に、暴露する。紛れもない本心だ。 ひどい話だと思うし、非難されても仕方がない。
「あのな。カナコ。宏海はずっと、お前のことが好きだったぞ?」
「……は」
「まぁくん、何で言うの。今言わなくたっていいじゃん」
「だって、そうだったろ? 宏海の初恋はカナコ。でもなかなか会えなくなって、今みたいに便利な時代でもなかったし。落ち込んで、落ち込んで。なぁ」
「あぁぁ……まぁくん。そこまで言わなくたっていいのに」
べそかいた宏海がキッと匡を睨む。耳まで赤くしたおじさんは、恥ずかしそうに私を見た。それは、あの頃のようだった。

