「宏海。昨日はごめんなさい。でも、ありがとう。とても嬉しかった。ごめんなさい、なんて先に言ってしまったから、きっと何も聞きたくなくなっちゃったのよね。あの話の続き、今、聞いてもらえる?」
宏海が、ようやく顔を上げる。戸惑っているような、泣いてしまいそうな顔で。私とカナタをジィっと見比べ、ゆっくり頷く。私もだけれど、匡も、それを見てホッとしたのが分かった。
「実はここに来る前、両親にカナタを会わせたの。この子と再会したのは秋だったけれど、私たちはまず親子をやり直さなきゃいけなかった。何よりもカナタの気持ちが大切でね。少しずつ触れて、話をして、ようやく両親に会わせるってところまで来たの。だから昨日は、そのことで頭が一杯だった。祖父母に会って、カナタが何を思うのか。私をきっと恨んでいるこの子が……それから、どう思うのか。何も分からなかったから」
情けない。ちょっと震えている。カナタが心配そうに見つめてくるが、大丈夫よ、と微笑む以外ない。目の前に座る二人は、何も言わず私の話に耳を傾けてくれた。
「本当はね。宏海の気持ちを聞いた時点で、私はきちんと断らなければならなかった。自分は幸せになるべきではない。そう思っていたんだから。なのに……出来なかった。何かが間違って、幸せになることが許されるかも知れない。そんな微かな希望を捨てきれなかった。だからね、少し時間を貰えませんかって言うつもりだったの」
前を見なくちゃいけないのに、どんどん視線が下る。カナタのせいではない。宏海のせいでもない。全て二十年前にこの子を手放してしまった私のせいだ。またギュウッと拳に力が入った。
「中川さん。僕が再会した母は、確かに自分は幸せになるべきではないと思っていました。それは多分、今もです。僕が許すかどうか、だけじゃない。自分を許せなかったんだと思います」
「カナタ……」
カナタがどう感じたか。少しずつ話をしてきたが、こうして彼の選んだ言葉が並ぶと、心が抉られる思いだ。それが例え辛くとも、苦しくとも。私は何度でも、彼の気持ちを受け止めなければいけない。
宏海が、ようやく顔を上げる。戸惑っているような、泣いてしまいそうな顔で。私とカナタをジィっと見比べ、ゆっくり頷く。私もだけれど、匡も、それを見てホッとしたのが分かった。
「実はここに来る前、両親にカナタを会わせたの。この子と再会したのは秋だったけれど、私たちはまず親子をやり直さなきゃいけなかった。何よりもカナタの気持ちが大切でね。少しずつ触れて、話をして、ようやく両親に会わせるってところまで来たの。だから昨日は、そのことで頭が一杯だった。祖父母に会って、カナタが何を思うのか。私をきっと恨んでいるこの子が……それから、どう思うのか。何も分からなかったから」
情けない。ちょっと震えている。カナタが心配そうに見つめてくるが、大丈夫よ、と微笑む以外ない。目の前に座る二人は、何も言わず私の話に耳を傾けてくれた。
「本当はね。宏海の気持ちを聞いた時点で、私はきちんと断らなければならなかった。自分は幸せになるべきではない。そう思っていたんだから。なのに……出来なかった。何かが間違って、幸せになることが許されるかも知れない。そんな微かな希望を捨てきれなかった。だからね、少し時間を貰えませんかって言うつもりだったの」
前を見なくちゃいけないのに、どんどん視線が下る。カナタのせいではない。宏海のせいでもない。全て二十年前にこの子を手放してしまった私のせいだ。またギュウッと拳に力が入った。
「中川さん。僕が再会した母は、確かに自分は幸せになるべきではないと思っていました。それは多分、今もです。僕が許すかどうか、だけじゃない。自分を許せなかったんだと思います」
「カナタ……」
カナタがどう感じたか。少しずつ話をしてきたが、こうして彼の選んだ言葉が並ぶと、心が抉られる思いだ。それが例え辛くとも、苦しくとも。私は何度でも、彼の気持ちを受け止めなければいけない。

